瀬戸内海に浮かぶ小さな島、祝島。対岸の上関町・田ノ浦に持ち上がった原発建設計画に、島の住民たちは28年間も反対運動を行なっている。鎌仲ひとみ監督の映画『ミツバチの羽音と地球の回転』は、祝島の住民たちによる原発反対運動と、北欧スウェーデンで行なわれている持続可能な社会を構築する取り組みを追った、ドキュメンタリー作品だ。6月10日、渋谷ユーロスペースでの映画上映後、鎌仲ひとみ監督と後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)とのトークイベントが行なわれた。
静岡県にある実家が、浜岡原発まで30km圏内のところにあり、もともと原子力発電やエネルギー問題に強い関心があったという後藤と、ドキュメンタリー映画を通して日本のエネルギー問題を訴え続けてきた鎌仲監督とのトークは、原発やエネルギー問題といったシリアスなテーマを扱いながらも、そういった話題にこれまであまり関心がなかった観客も入りやすいように、ユーモアを交えつつ繰り広げられた。満場の観客たちは興味深そうにふたりのトークへ熱心に耳を傾けていた。
鎌仲ひとみ「福島の原発事故が起きて、私もすごくショックで、『これが夢だったらいいのに』とか『本当に起きてしまったんだな』とか、いろんなことを考えたんですけど、あの事故が起きた後、後藤さんはどう感じて、今どうしようと思っているのかということを聞きたいです」
後藤正文「やはり生き方、考え方を変えていかないといけないな、という実感があります。僕らの世代って“ロストジェネレーション”と言われて、就職もない、超氷河期だったんです。バブルも終わって、失われた十年の中で育ってきて。それでも右肩上がりでなくちゃいけないっていう幻想にすがりついてきたけど、それのとどのつまりが今ここなんじゃないかって思っています。やっぱりそういう幻想っていうか考え方はもうダメなんじゃないかなと、これからは。たとえば“幸福”って何かとか、僕は詩も書いたりするので、もう一回言葉の意味とかを定義し直す時代じゃないかと思いますね」
鎌仲「その“幸福”ってことで言うと、これまでは東京に出て、おしゃれな生活とか美術館とか音楽とかいろんな選択肢に溢れて、都会的な物の中に豊かさや幸福があるんじゃないかって思われていて。ありとあらゆる地方が“東京的”になりたいっていう、幻想が振りまかれていたと思うんです。だけど、私が祝島で発見した豊かさっていうのは、たとえば季節が巡るごとにやってくる――ひじきの収穫とかね(笑)」
後藤「はいはい(笑)」
鎌仲「種も蒔かないのに、毎年ザクッザクッと海がひじきを育ててくれる。それを毎年きちんと収穫できるという豊かさ。美しい夕陽が美しい海に沈んでいくっていう豊かさ。そういうものって、今まではそんなに価値がないものとして思われてきたんじゃないかな」
後藤「ホント、そうですね」
鎌仲「今日はエネルギーのことを話したいのですけど。たとえば、世界中が目指しているエネルギーっていうのは、原発ではなくて、やっぱり自然エネルギーだと思うんです。この5年間、毎年世界中の自然エネルギーは60%ずつ増えてきた。だけど、それが日本の中では増えない。そういうことを考えると、どうやったら日本の中で自然エネルギーを増やしていけるのかということが、これからの課題だと思うんですよね。だから原発をなくすことよりも、自然エネルギーを増やしていくことによって、必然的に原発が後退していくというようなイメージを私は持っているんです」
後藤「自然エネルギーを増やしていかなきゃいけない、というのは僕もすごく思っていて。最近ショックだったのが、日本のエネルギー自給率は4%しかなくて、それってヨーロッパの国と比べてどのくらいかというと、地中海のマルタ島と同じ比率なんですよ。こんなに経済大国なのに、それぐらいしか進んでない。それがすごくショックで。石油の採掘量もこれから下降して行く中で、ヨーロッパは自然エネルギーをどんどん取り入れていて。やっぱりそういう流れにいかないとダメだと思いますね」
鎌仲「私ね、スウェーデン人に言われたんですよ。『日本人って、暖房も電気でやってるんだって?』って。で、『オール電化もあるんですよ』って私が応えたら、『野蛮だな……』って言われて(笑)。なんで野蛮なのか聞いたら、電気で暖房するのは一番エネルギー効率が悪いって言うんですよ」
後藤「ああ、なるほど」
鎌仲「石油でも原発でも、最初は核分裂反応でお湯を沸かして、出てきた蒸気でタービンを回すので、最初の熱エネルギーの3割分しか電気にならないんですよ。で、それを送電線で運んでいって熱に戻すと、またエネルギー効率が落ちて、結局は最初のエネルギーの2割以下しか電気として使えない。だから、映画の中に出てきたように木質チップを使って水からお湯を沸かして、熱エネルギーを直接届けることによって、暖房に電気を使わないっていうことをスウェーデンはやっている。それが一番エネルギー効率がいいんだって言うんですね。あと、スウェーデン中を走っているバスは、人間のうんちとおしっこで作られたバイオガスで動いているんです」
後藤「出た(笑)! それ、すごい興味あるんです」
鎌仲「あははは! 日本は資源がないってみんな言ってるけど、東京にはこーーんなにいっぱい人が住んでて、みんなうんちしてるわけでしょ?(笑)」
後藤「そう。さっきも話してて、もうこれからは絶対“糞発”の時代だって(笑)」
鎌仲「“糞発”(笑)。でも、実際にスウェーデンは2010年にすでにバイオマスエネルギーが石油エネルギーを超えたんですよ。すごく有名なコマーシャルがあってね、現金輸送車がスウェーデンの美しい田園地帯を走っていて、それで現金を入れるジュラルミンケースに牛のうんちを入れて、鍵をかけて走り去っていくんですよ。でそこに『今やうんちは黄金の価値がある』ってコピーが入るの」
後藤「それはすごいですね(笑)」
鎌仲「ね。先進的でしょ?」
後藤「そうですね。先進的ですね。発想が逆転しちゃってるわけですもんね。ゴミに価値があるなんて。実はこの前、再生可能エネルギー推進協会の方に話を聞いたんですけど、そこのおじいちゃんが言うには、『今、家畜を含めた排泄物の類いは引き取るとお金をくれる。そこから電気を作って売ったら、これはもうこんなに儲かる話はない』って。ホントはここでは言いたくないぐらいの話なんですけど(笑)」
鎌仲「あははは!」
後藤「すごくビッグなビジネスチャンスだと思ってるんで(笑)。ただ、今は電気の売値が安い。たしか1kwあたり3円って言ってたかな?」
鎌仲「でもほら、今まで原発の電気は1kwあたり5.2円だっただから、すべての電気、発電の中で一番安いんだって言い続けてきたのに、その自然エネルギーを電力会社はそんなに安く買い叩いてていたんですよ。みんな知らなかったでしょ?」
後藤「そうなんですよね。だから、何はともあれ、全量買い取り制度は通して欲しいですね。そうしないと僕の“糞発”も軌道に乗らないので(笑)」
鎌仲「そうなんだよね(笑)。今のままの法律だと、海外の人たちが私なんかに取材してると、『日本には自然エネルギー阻止法があるんだって?』って言われるんです。それで映画の中で、スウェーデンのエネルギー庁長官が『バリアを外すんだ』って言ってるんだよね。だから、そのバリアを外すことが大事。もうひとつはね、これからいろいろな市民の発信が必要だと思うんです。さまざまな意思を表明して欲しいなと思うんですけど、後藤さんは原発反対運動が好きではないのよね?」
後藤「というと語弊がありますけど、たとえばデモって、どうしてみんな歩くんだろうっていう。どうして町中を練り歩くんだろうって全然分かんなくて。だから僕は、新しいデモンストレーションを考えていて」
鎌仲「ぜひ聞きたい!」
後藤「今、webサイトと連動している新聞を作っているんですけど、『The Future Times』っていう。『未来新聞』っていう意味なんですけど、これは無料で配るんです。いろんな場所で配ろうと思っていて、無料ということにも意味があると思って。……僕の自腹なんで、印刷代を聞いてゾッとしたんですけど(笑)」
鎌仲「あはは。やっぱり電気を売って儲けないとダメだね(笑)」
後藤「そうですね(笑)。でも何かに反対してではなくて、たとえば『糞発』って面白いとか。そういうふうにして発信した方が、自分たちの世代には食いつきやすいんじゃないかって思ってます」
鎌仲「後藤さんたちの世代が一番、skeptical(懐疑的)っていうか、疑り深いっていうか、周りがつるんでやってても自分個人として参加するっていうことに積極的でない世代ですよね。ノリが悪い世代」
後藤「そうですね(笑)。でも、だから同世代や少し上の世代で面白い人を集めようと思って。で、面白い人の面白い考えを記事にして、『こんなこと考えてる人がいるんだ』って、それがヒントになっていくと思う。それは僕自身も考えを編集し直してる。僕もその新聞を作りながらみんなと一緒に成長したいし。で、世の中の新しい価値観っていうのを30代、20代で編み直して、自分たちが60、70代になったときに、若い世代にきちんとバトンタッチできるような歳のとり方をするっていうのがひとつの目標。明るい未来を自分たちで作るためにも、何が面白くて、何をしたらいいかっていうのを、間違うこともたくさんあるかもしれないけれど、いろんな場所で考えてみようと」
鎌仲「それはなかなかカッコいいんじゃないかしら。だからこういうことが起きた後でも、私たちが幸せになったり、安心したりするために何ができるのか一人一人ができることをやっていくしかないと思っています。みなさんもみなさんのやり方を考えて、発信しないと。黙っていたのではOKといっていることになってしまうので。原発に対してではなくても、これがいいと思うものに対してOKを表明する。私の映画を他の方にお勧めいただくというのでもいいですし(笑)。あ、後藤さんの『糞発』を応援するでもいいですよ」
後藤「そうですね(笑)。がんばります」
鎌仲「いろいろとこれからも、面白いことたくさん繋げて行きましょう。今日はありがとうございました」
後藤「ありがとうございました」
鎌仲ひとみ Profile
大学卒業と同時にフリーの助監督としてドキュメンタリーの現場へ。 初めての自主制作をバリ島を舞台に制作。その後カナダ国立映画製作所へ文化庁の助成をうけて滞在する。カナダの作家と共同制作。NYではメディア・アクティビスト集団ペーパータイガーに参加。95年に帰国してからNHKで医療、経済、環境をテーマに番組を多数制作。98年、イラク取材をきっかけに「ヒバクシャー世界の終わりに」を作る。現在は東京工科大学メディア学部助教授に就きながらその後も映像作家として活動を続けている。
■映画『ミツバチの羽音と地球の回転』
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