日本ではとなった4年目レコードストアデイを盛り上げるべく、『THE FUTURE TIMES』はレコードストアデイ特集を増刊号を発行しました。それに合わせて、大阪は心斎橋の『digmeout ART & DINER』にてトーク&ライブイベントを開催。レコードストアデイとは何か、アナログレコードの面白さ、そして音楽の未来について、レコードストアデイ事務局長の鈴木健士さん、増刊号にも登場してくれたDJ/ミュージシャンのCHABE(チャーベ)さん、FLAKE RECORDSの店長DAWAこと和田貴博さんと語らいました。
後藤「まずは、ざっくりレコードストアデイっていうのは、なんぞやっていうのを、鈴木さんにお話いただきたいんですけども。レコードストアデイは、日本では4年目ですよね。でも、浸透してないですよね。レコードストアデイを知ってたっていう人、会場にどれくらいいますか? 手、あげてください」
チャーベ「全然いないじゃないですか!毎年やってるのに、ゼロですか…」
後藤「1名ですね。150名分の1名…」
鈴木「まあ、それはね、本当、いろいろ原因があるんですけどね」
後藤「鈴木さんがこのレコードストアデイに関わり始めたのは何年前なんですか」
鈴木「2年前からです。2年前の2月ぐらいに話が来て、じゃあ3月にちょっと準備しようっていう時に大震災が起きて、もう東北のお店、——『CDショップ大賞』もやってるんですけど、『CDショップ大賞』(※1)の参加店がみんなぐちゃぐちゃになっちゃったんで、もうそっちでかかりっきりになって、何もできず…。ただアメリカにちょっとお願いして、ビースティボーイズ(※2)のアナログ盤かな、限定盤の売上げを全て東北大震災のほうに寄付をしてもらったという運動だけでした」
後藤「ちょうど、去年ぐらいですよね、レコードストアデイ、日本でもやっと始まるなっていう感じがあったのは」
和田「いや、あることはあったんですけどね…。別の方がやってたんですよ。レコードストアデイジャパン。でも個人的にやってて。で、僕らは海外の商品を仕入れてるので、海外ではすごく始まった感があって、それが4〜5年ぐらい前です。例えば、メタリカ(※3)が僕の店でインストアするとかそういう規模のことが、始まって」
後藤「メタリカってものすごいバンドですよ。サマーソニックの今年のトリで出てくるバンドが!?」
和田「そういう人たちが、僕らみたいなちっちゃいレコード屋で、例えば限定盤アナログを出したり、ライブをしたりとか。盛り上げていこうって運動をしてくれているんです」
後藤「日本で例えるならば、ダワさんの店にミスチルが来るくらいのできごとですよね(笑)」
和田「そう、その規模です(笑)」
チャーベ「だから、“レコード屋さんを盛り上げようよ”みたいなのをアーティストがやってるんだよね」
和田「アーティスト発信のほうが強かった気がしますね」
鈴木「一番最初はね、5年前にクリス・ブラウンっていう人とマイケル・カートさんっていう、要は小さなミュージックショップの親父さんたちが集まって、このままだともうウォルマート(※4)に全部商品持ってかれてしまう…、——アメリカではウォルマートっていう巨大スーパーマーケットがCDを扱うようになったんですね。それこそ9ドル99セントというような値段で。日本の場合は価格を変えることはできないんです、ある一定期間、価格を変えちゃいけないんだけど…」
後藤「再販制度(※5)ですよね」
鈴木「はい。アメリカにはその法律がないので、店が自由に価格を設定することができるんですね。それでもう、ウォルマートが全部CDを発売して、タワーレコードがまず潰れ、ヴァージンメガストアがつぶれ、HMVがつぶれと…。いわゆるCDショップチェーン店が全部なくなっちゃったんです。町の小さなお店しか残ってないんですね、今ね。そのお店の人たちがなんかやろうよって言って、一番最初に『ラスプーチンミュージック』っていうレコードショップで、メタリカがライブをやってくれた」
和田「僕、去年行きました、そのレコード屋さん」
鈴木「それにポール・マッカートニー(※6)が呼応して、これはもうアーティストみんなで盛り上げようって。このままだと本当にCDがなくなってしまうし、レコードがなくなってしまう。ポール・マッカートニーが呼びかけて、一斉に日本を除く全世界で盛り上がったと」
和田「リリース数はすごく増えてきてて、ちょっと僕らも把握できないです。いろいろ仕入れるんですけども、現地の小さいショップに先に行き渡るようになってるんで、日本に入って来ないことも多くて」
チャーベ「特別なレコードがその日にリリースされるってことですよね」
和田「例えばフェニックス(※7)って、今度出るバンドの7インチは、実はレコードストアデイで出てたりするんですけど。手に入れられないんです…。現地で売り切れちゃうので」
チャーベ「“お店に行きましょう!”っていうことですよね」
鈴木「それが始まったのが2008年4月の19日。それから毎年4月の第3週目の土曜日をレコードストアデイに決めて、みんなで盛り上げていきましょうという運動なんです。皆さん全然知りませんよね? これはなぜかっていうとですね、全世界では、いわゆるメジャーレコード会社、ワーナー、SONY、そしてユニバーサル、EMIの4社がレコードストアデイの運動をスポンサードしてくれたんですね。ですが、日本のメジャーレコード会社はガラパゴス状態になってるんです。説明したんですよ、“今、海外ではこういうことやってるんですよ”と。それに対して“知りません。アナログなんか出す気ありません、なぜなら売れないから”。これ、アジカン所属のレコード会社の悪口にもなっちゃいますけれども」
後藤「ざっくりSONYってことですよね(笑)」
鈴木「もうね、本当、これ全部、EMIもそうでしたし、ワーナーもユニバーサルも全部行きましたけれど、“そんな小さい運動やる気はないよ”と断られた。なので、誰も知らないんです。我々ももちろん、力が足りない。PR力が全然ないんですけれども、それでも、もうちょっと、みんなで盛り上げるって気運を作れればなと思って…。最初の年は震災があったと。2年目、去年は4アーティストが参加してくれたんですね。キノコホテルさん、鈴木祥子さん、カーネーション、ムーンライダーズ。参加店舗も40店舗。今年は一気に80店舗に増えて」
後藤「増えてよかったですね」
鈴木「ええ。参加アーティストも15アーティストまで来まして。“あっ、来たな”と。これは去年の後藤さんのツイッターでのつぶやき一言で、おそらくここまで来たんではないかなと」
後藤「『THE FUTURE TIMES』の発行の意図は、もともとは震災からの復興とか、エネルギーの問題とかそういうことなんですけど、今回はレコードストアデイの特集をどうしても作りたくて、編集部の皆にちゃんと話しました。どうして作りたいかっていうのはね、それは最初の見開きページに書いてあるんで、是非、どこかで手にして読んでほしいんですけれど」
チャーベ「今回の出演者で言うと、マジでゴッチ君が動いたから、店舗も増えただろうし、例えばこういうイベントもできてると思うんで。さらに後に続く人が出てきて欲しいよね」
後藤「でも、大御所欲しいですよね。ポール・マッカートニー的な。誰ですかね?」
和田「なんか僕は、あんま年配の方じゃない人で動いてもらったほうが、いいんじゃないかなと思ってるんですけどね。若手のバンドがやってくれるとまた違うかなとは思ってます」
後藤「サカナクションのリミックスとかね、聞きたいですよね」
和田「そうそう!そんな感じ。例えば、年配の方のレコードは買う人も年配の方だと思うので、そうじゃないようにできればなと僕らは思ってますけど」
後藤「そうですよね。例えば、僕らみたいな30代のミュージシャンのものを30代が買うだけじゃ広がらない」
鈴木「プレーヤー持ってる人って、今、どのぐらいいらっしゃいます?」
チャーベ「(会場の1/4の挙手に対して)結構いるね」
和田「予想より全然いますね」
鈴木「素晴らしい。レコードって音、違うでしょ? CDとか、iTunesから落としたものと。めちゃくちゃいい音しますよね」
後藤「でも、スピーカーやサウンドシステムにもよるんじゃないですかね」
チャーベ「システムにも左右されるよね」
後藤「あと、たまに、すっごい音が悪いレコードありますよね。だから、何ていうんだろ、アーティストごとで差が激しい(笑)」
和田「プレスの場所とか会社とか、ファーストプレストかセカンドプレスかで音が違うし。レコード屋っぽいこと言ってるでしょう?」
後藤「うん。(笑)いや、本当に“金返せ!”っていう物が、レコードの場合は出てきます。mp3とかCDは差がないですけど。レコードはもう、“うわあ…”みたいな盤がたまにある」
和田「なんかね、ミスが多い媒体ですね。ジャケットが違うとか、中身のシールが違うとかずれてるとか、そもそも反ってるとか、いっぱいありますよ(笑)」
チャーベ「買った時から針飛びする新品とかあるしね。悪い面を言ってもなんですけど。なんかもう慣れたよね(笑)。レコード屋さんが泣いてくれるんだよね。交換してくれるもんね」
和田「そうです、僕らが泣くだけです(笑)」
後藤「本当に、おばちゃんが手でレコードやジャケットを詰めてますからね、機械で詰めてるんじゃなくて」
和田「そうなんですよ。僕らは自分で出したやつ、僕が詰めてますしね、シール貼って」
後藤「“この工程は人じゃなきゃできないんです!”って言われましたよ、工場見学に行った時に。意外と人の手がかかってるんですよ」
チャーベ「なんかさ、昔のインディーのそれこそ80年代とか90年代のプライマル・スクリーム(※8)の初期とか。そういう人の7インチで、レコードの盤面のすみに針で自分で絵を描いたり、メッセージ書いたりしてるのがいっぱいあって、すごい楽しみだったんです」
和田「そうですね。そこに掘ってる。A面、B面もそこに実は書いてあって」
チャーベ「そういうのなんか、アナログならではというか」
鈴木健士
RECORD STORE DAY JAPAN事務局長・ミュージックソムリエ協会 理事長
2007年、NPO法人ミュージックソムリエ協会を設立。制作をほぼ辞めて、CDショップ大賞の立ち上げから運営、RECORD STORE DAY JAPANの事務局運営、Music Sommelier at CAYのイベント運営、またミュージックソムリエの育成講座を実施している。
⇒ ミュージックソムリエ協会
⇒ RECORD STORE DAY JAPAN
DAWA(和田貴博)
大阪、堀江のレコードショップ『FLAKE RECORDS』の名物店長。店内には新譜を中心に輸入盤レコードやCD、日本のインディーズレーベルの作品などが取り揃えられ、その全てに自作の紹介文 が添付されている。インストアライブなども頻繁に開催。その他、レーベル運営やイベント企画など、勢力的に活動中。
⇒ FLAKE RECORDS
松田“CHABE”岳二(まつだ“ちゃーべ”がくじ)
1970年、広島県生まれ。ソロ・プロジェクトのCUBISMO GRAFICO、バンド・スタイルのCUBISMO GRAFICO FIVE、キーボーディスト・堀江博久とのユニット、ニール&イライザ、DJ、リミキサーとして活躍中。また、FRONTIER BACKYARD、LOW IQ 01のライブバンドMASTERLOWのサポートも務める。2001年には、映画『ウォーターボーイズ』の音楽を手掛け、第25回日本アカデミー賞最優秀音楽賞を受賞。渋谷Organ Banでのレギュラーナイト『MIXX BEAUTY』をはじめ、三宿Web他、CLUBでのDJで現場を大切にした活動を展開。
■注釈
(※1)『CDショップ大賞』
全国のCDショップの店員が、年に一度の投票で選ぶショップ大賞。メジャー、インディを問わず、過去1年間に発売された作品を対象とし、一次二次の二回の投票を経て様々な賞をアーティストや作品に与えている。
全国の書店員が最も客に勧めたい小説を選ぶ文学賞、『本屋大賞』が元ネタ。「許諾を得に行った」と鈴木さん談。
全日本CDショップ店員組合
http://www.cdshop-kumiai.jp/
(※2)ビースティボーイズ
アメリカの音楽グループ。マイクD、キング・アドロック、MCAが主要メンバー。白人ヒップホップの草分けとして有名だが、楽器を使ったバンド形式の演奏も行う。プロテストソングの制作、チベタンフリーダムなどの活動など、政治的な主張も行っている。
(※3)メタリカ
アメリカのヘヴィメタルバンド。1990年、グラミー賞獲得。翌年に発売した5枚目のアルバム『Metallica』が全世界で大ヒット。スラッシュメタルの先駆者としてシーンに登場したが、現在では幅広く多くのフォロアーがラウドロックシーンを中心に存在している。
(※4)ウォルマート
アメリカに本拠地を置き、世界に6000店舗以上を誇る世界最大のスーパーマーケットチェーン。売上げも世界最大。 高回転する商品を徹底的に積み上げ、徹底的に回転させることで高い利益をあげている。西友と資本・業務提携し、日本へも進出。
(※5)再販制度
再販売価格維持制度。出版社が書籍・雑誌の価格を決定し、小売書店などで定価販売できる制度。「出版物を全国どこでも同一価格で提供するためのシステム」であると日本書籍出版協会。
この制度がなくなると、ベストセラー本の価格は高くなり、売れない本は安く叩き売られてしまうなど、売り場に偏りが生じ、結果として出版物の多様性の担保を妨げるのではないかと言われている。また、価格競争によって、小さな小売店が淘汰されてしまう可能性が高い。
(※6)ポール・マッカートニー
いわずもがなのThe Beatlesのメンバー。世界で最も有名なミュージシャンのひとり。バンド、ソロ作に関わらず、数々の名曲を世に送り出している。
(※7)フェニックス
フランス出身のロックバンド。エレクトロを導入したポップなサウンドは世界中で人気。4枚目のアルバム『Wolfgang Amadeus Phoenix』でグラミー賞を獲得。
(※8)プライマル・スクリーム
スコットランド、グラズゴー出身のロックバンド。様々な音楽性をアルバム毎取り込み、ダンスミュージックに接近した3rdアルバム『Screamadelica』でブレイク。