今回、静岡県牧之原市に完成したバイオガス発電所をともに見て回ったのは、建築家の竹内昌義さん。
THE FUTURE TIMES 07号で紹介したエコハウスの事例に続き、そこからまた少し進んだエネルギー利用の未来像や、私たちの暮らしとエネルギーの密な繋がりについて考えてみる。
後藤 「今回は竹内さんと一緒に牧之原バイオガス発電所へ行けてよかったです。以前にもお話を伺った竹内さんの専門である熱供給やエコハウスと絡めて、何か広がるかなって思いました」
竹内 「僕は最初に発電所を一緒に見に行きませんかとお誘いを受け、とはいえ何の〝バイオガス〟なのかよくわかっていなくて。実際に見て〝ああ、ゴミのことか!〟と。集めてきたゴミを発酵させることでメタンガスが出て、そのエネルギーを発電に、という工程を、あんなに臭いがしないところで全部できるということにとても可能性を感じました。都市型の施設として考えてみても、今までみたいに燃やして煙が出るということもなく、すごく上手いことができるのではないかなって」
後藤 「NIMBY(=Not In My Backyard)問題という視点で見ても、〝ゴミ処理施設は迷惑施設〟という捉え方が変わりますよね。多くの自治体がじつはゴミの最終処分場を持っていないと聞きますけど、産業廃棄物をこうして無駄なく発電に使って、ゴミが出なくなるっていうのはすごいことだなと思いました。でも、そもそも自分たちの身の周りでこんなに食品廃棄物が出ているんだということにも驚きました」
竹内 「そうですね、それは本当に」
後藤 「実際に見るとすごくよくわかる。この施設、熱も発生するから、熱供給と電力供給の両方ができそうですよね」
竹内 「ええ。発電所としては小さい規模だとおっしゃっていたけれど、僕が興味を持っている熱の利用という観点では、すごく意味がある施設だと感じました。熱の利用って、エネルギー的にいろんな可能性があるんです。まずこの静岡・牧之原に一つ目ができて上手いこといっているのがわかれば、一気に広がる可能性もありそうだと思いましたね」
後藤 「欧米だと小さな地域でも電気を作って市場に販売して市や町の収入にしているような事例もありますよね。そこまでできたら一番いいだろうなと思いますけど。こういう施設を今持てることは、大きなビジネスチャンスなんじゃないかって。環境負荷が少ない、ということが商売になると強いはずですよね。お金儲けというのは無視できないですし。将来的には、こういう施設を食品会社が自前で持つような時代になるかもしれない」
竹内 「お金儲けができていないと、継続していくのが難しいですからね。 〝がんばろうよ〟っていう意志だけでは続かない。それにしても、自分のゴミが役に立っている感じっていうのはおもしろいですよね。実際にこの発電所の仕組みを見学するとすごく納得できるし、これを商売にできたらっていう儲けたい人が参入してくるモデルになりそうな気がしました。広がっていくんじゃないかな」
後藤 「社会科見学で清掃工場へ行ったりしましたけど、対象がこういう施設に変わっていくのかな。今回の記事を読んでくれた若い人たちが環境にやさしい技術の研究を行っている学科を目指してくれたらいいなって思います。もう自分がおじさんになってきているからか(笑)、この記事を読んで将来イノベーションを起こすような人が生まれたら、ということが唯一の希望です。自分たちだけで社会を変えることって難しいですし」
竹内 「いやいや(笑)。でも本当にそういう大学を作りたいぐらいですよね。教育も大事なので。みんなでより快適に気持ちよく暮らせる仕組みを作ろうとなったときに、いろいろなセクションがあり、それぞれがやるべきことが繋がっていく、というイメージができればいいなあとつくづく思いますし。環境負荷の少ない仕組みっていうのは、商売をしている人や新しい技術に興味のある人はもう必ず気がついていて〝なんかいいらしいぞ〟という気運にはなっていると思うので。もう少しで一気にそういうムーブメントが来るのではないかという雰囲気があります。新しいものができれば、その人たちにとっては新しい仕事になる。つまり新しい産業になる。でも今の日本って、新しいものに対してすごく消極的で〝あれほしい!〟という感じがあまり無いのかな、とも思ったり……。〝このままでいいんじゃない?〟という気分を感じると、僕は、なんだかちょっと残念だなあと思ってしまう」
後藤 「暮らしにまつわる何かが少しずつ繋がって、みんなで少しずつよくなっていくようなイメージでやっていきたいですよね。とはいえ、震災から何年か経ってもまだまだいいことばかりではないし、かなりの手強さを感じたりもしますけど」
竹内 「そうですね。みんなもう忘れちゃったのかな? という感じすらしますね。でも、またそうやって忘れ始めた頃に大きな地震などあるんじゃないかって心配になったりします」
後藤 「どこかで、グッと変わらないといけないと思います。電気自動車とかも、僕は最初よくわからなかったけど〝ああ、これって電池が走ってるんだ〟と考えたら理解できて。太陽光で発電した電気を電池(=車)に蓄えておいて、無くなったら車自体が電池だから、家の電気が足りない時はプラグを繋いで車から電気引っ張ることもできるし。そこらに電池があると考えると、いいことだなって思います。ちなみに、僕らがソーラーエネルギーでライブをやる際に難しいのは電池なんです。電池だけでトラック1台とかの分量になるので、もっと小型化されたらいいなと常々思っていて」
竹内 「そう。僕らも散々、電気の節約って言いながらも携帯もPCも電気が必要で、結局自分たちは電気なくしては生きていけないわけで」
後藤 「ソーラーパネルが置いてある野外ステージもよく見かけるようになりました。巨大なフェスとかだと、まだちょっときついかもしれないですが。でもこれってもしかしたら、将来、お客さんが電気自動車に乗ってくれば、その電気でライブをすることすらも可能になるかもしれないですよね。電気代の分だけ入場料を安くする、とかもできるかも。そういうおもしろさもあるのかなと。 〝楽しい〟〝便利〟〝環境にいい〟が全部混ざっていくといいですよね。このバイオガス発電所のように、ともするとこれまで迷惑施設とされてきたようなものが全然迷惑じゃなくなる瞬間って、ラディカルだなと思います」
竹内 「人間の身体と同じような仕組みだというのもおもしろかったですね。人間の身体の場合、発酵はさせず消化しているだけかもですけど。おならが、メタンガスか。こういう、〝自然〟みたいなものが発電施設のかたちとしてある、という」
後藤 「ある種、生物の体内を模倣しているというか」
竹内 「そうですね。こういう都市でも可能な小さめの規模感のものへ、大都市の人たちが興味を持ってくれたらいいですね。小さいものがあちこちにできていくことで、一気に広がっていく時の勢いはすごいですから」
1962年神奈川県生まれ。建築家、東北芸術工科大学教授。95年から建築設計事務所『みかんぐみ』を共同主宰。主な代表作に『SHIBUYA AX』『愛・地球博トヨタグループ館』『伊那東小学校』『マルヤガーデンズ』『山形エコハウス』など。建築の視点から社会のあり方を見直し、仕組みを変え、新しい暮らし方を提案する。『団地再生計画/みかんぐみのリノベーションカタログ』『未来の住宅』『原発と建築家』『図解 エコハウス』など、著書・共著書多数。
家づくりをするときに最初に知っておきたい基礎知識、そして高性能なエコハウスのつくり方を、竹内さんをはじめ、家づくりの最前線で活躍する前真之氏、岩前篤氏、松尾和也氏、今泉太爾氏、森みわ氏、伊礼智氏、水上修一氏、三浦祐成氏という9人のエキスパートが紐解いた一冊。
暮らしかた冒険家・伊藤菜衣子氏、そして高断熱住宅を多く手掛ける建築家の松尾和也氏との共著。これからの時代、リノベーションの際の大きなキーとなる断熱・熱理論について、実用的な観点から学ぶことができる。