THE FUTURE TIMES

新しい時代のこと、これからの社会のこと。未来を考える新聞

TFT イベントトーク編@札幌PROVO

あえてアイヌの言葉を教えないみたいなこともあった

後藤 「楽曲のこのレパートリーって、いろいろな人から聞いて集めてくるしかないですよね。純粋なフォークってことですよね。伝承音楽というか、口承ですよね、アイヌの人たちは書き言葉を持っていないので」

Mayunkiki 「はい」

後藤 「書くことって政治的な性質があって、書き言葉を持たないアイヌが、“まつろわぬ民=従わない人たち”として、書く側の人たちである大和(ヤマト)に侵略された歴史がありますけれど。“書くこととは何か”ということに僕は興味があって。一方で、アイヌは全部口伝えっていう」

Mayunkiki
Mayunkiki

Mayunkiki 「耳がよかったのかしらね。なんか聞けるっていうのが」

後藤 「でも、耳だけじゃないところも使ってやりとりしていないと、うまく伝わっていかないですよ。フィーリングというか」

Mayunkiki 「そうですね」

後藤 「うん。それがすごく興味深くて。でも、そういう曲のレパートリーを増やす苦労というのはあるんじゃないかなと思うんですけど」

Mayunkiki 「新曲をつくることがないので。組み合わせは考えるんですけど、やろうとする曲は全部伝統曲なので、それをどう組み合わせるかということぐらいしか悩みがなくて」

後藤 「それはやっぱり、年長の人をたずねて行くんですか」

Mayunkiki 「いや、残ってる音声資料があるので。そういうものから引っ張ってくることが多いですね。昔の……今、ご存命のおばあちゃんとかにも聞くことはあるんですけど、やっぱりそれだともう、アイヌの母語話者ではないので」

後藤 「アイヌ語の母語話者って今はもういないんですか?」

Mayunkiki 「いない。でも、小さいときに聞いていた人とかいますけどね。ただ、日常的にアイヌ語が話せるかといったら、そういうことではないので。やっぱり日本語が後から入ってきたアイヌの人たち……の歌が多いかもしれないですね、今やっているのは」

後藤 「そういえば、去年かな、一昨年かな、『AINU』という写真集を買いました」

Mayunkiki 「ああ、池田宏」

後藤 「はい。池田宏さんの写真集。関連のインタビューを読んでいたら、アイヌの人たちの中には、もう親の世代でも、日本語だけでいいみたいな、日本人に同化していったほうが子どもたちにとって幸せだから、もう日本語で話しなさい、と。あえてアイヌの言葉を教えないこともあったという文章を読んだりして、胸が詰まりましたけど」

Mayunkiki 「うちのひいおばあちゃんとかも、アイヌ語が母語だったんですけど、私、小さいとき会ったことあるんですけど、アイヌ語で話しているのは聞いたことなくて」

後藤 「じゃあ、そのひいおばあちゃん世代ぐらいになると、母語だっていう人たちがいたということなんですね」

Rekpo 「ひいおばあちゃんは話しているけど、おばあちゃんはどうかというと、話さないんですよね。だんだん日本語だけになってきて、で、その下(の世代)もどんどん日本語だけになってきて」

後藤 「じゃあ3世代、4世代ぐらい遡らないとっていうことなんですね」

Rekpo 「そうですね」

求められるアイヌらしさ

マレウレウ

後藤 「アイヌの新法が成立して、先住民だと一応は認められた状況ですよね。みなさんは、以前からアイヌの文化を残そうっていう活動されているじゃないですか。そのことにも興味があるんですけど、何と言ったらいいんですかね、どう聞いていいか分からない自分がいるんですよ」

Mayunkiki 「ああ。難しいですね」

後藤 「言葉にならない。最初に、白老のTOBIU CAMPに出演したときに、何を話したらいいのか分からなくなってしまったんですけれど。僕は日本人というか、たぶん、側で分けたら大和(ヤマト)の側でみたいな。でも、何と言うんだろう、全く分からないし、その自覚がないというか、大和が遠過ぎちゃって。北海道を開拓した人たちとすらつながってる感じがないので。日本人を代表して謝るのもおかしいし」

Mayunkiki 「そうですね。侵略した側でごめんなさいとか、なんか後藤さんに言われてもみたいな(笑)」

後藤 「だから、どうやってアイヌについて話したらいいんだろうという悩みはいろいろあって。池田さんの写真集のインタビューでは、飛び込んでいっていろいろ怒られたということも書かれていて。飛び込み過ぎちゃったりとかね。難しいことなんだなと思って」

Mayunkiki 「うん」

後藤 「だから、何を聞いていいかもほとんど分からないんですけど。自分たちにとってのアイヌのアイデンティティって、言葉にするとどういうものなんですか」

Mayunkiki 「うーん、何かあるかな? ある? 考えたことある?」

Rekpo 「考えたことないんだよね、本当ね」

Mayunkiki 「でも、日本に生きていて、日本人のアイデンティティってあんまり考えなくないですか」

後藤 「考えないですね」

Rekpo 「そこなの」

Mayunkiki 「それを、だから、アイヌだけに言われても」

後藤 「それ、ハッとしました」

Mayunkiki 「だから、例えば海外に行って、日本文化を紹介しなきゃいけないときとかには、もしかしたら考えられるかもしれないけど。普段生きていて、日本の生活をしているなかで、あえて自分がアイヌだということを考えなくてはいけない、その選択性というか、アイヌだからってアイヌのことを考えなきゃいけないっていう、その強制的なものの流れというのは絶対あって」

後藤 「“らしくしろよ”ってことですよね」

Mayunkiki 「そうそう。だから、私は反発したくて。私は日本に生まれて、日本人の血も引いているので、日本人であることもアイヌであることも大事なんですよね。だから、それでアイヌだけの話をされて、自分の日本人の部分をないがしろにされたくないというか」

後藤 「それ、すごくいい言葉だなと思いますね。確かにそうだ」

Mayunkiki 「なんでこう、選ばなきゃいけないのかなというのはずっとあって。少数民族とか先住民とかって言われる人って、やっぱりらしさを求められるし」

Hisae 「しかもさ、らしさっていうの、自分で選択できないよね。そういうときのらしさって。外側から見て、アイヌってこうでしょう的な。それと合わないと、なんかちょっと…」

Rekpo 「違うってね」

Hisae 「違うんじゃないのって言われたら、それは違うよねって本当に言いたいよね」

Mayunkiki 「だから、10年かけて、私たちは山に住んでシャケを捕ってないですよって言い続けてきたんですよ、MAREWREWは(笑)」

表紙