THE FUTURE TIMES

新しい時代のこと、これからの社会のこと。未来を考える新聞

TFT イベントトーク編@札幌PROVO

アイヌの伝統歌「ウポポ」の再生と伝承をテーマに活動するグループ、MAREWREW(マレウレウ)。
彼女たちが肌で感じる不寛容な社会。そのなかで自由に響くアイヌの歌。
押し付けられる「アイヌ」というイメージについて思うこと。

文:後藤正文

熱過渡期なんですよね、アイヌのものって。

イベントトーク

後藤 「MAREWREWはアルバムを出したばかりですね」

Mayunkiki 「そうなんですよ。前のフルアルバムはいろんな楽曲が入ったりして遊びがあったんですけど、今回は聞いてくださって分かるとおり、遊びがないので」

後藤 「ハードコア・アイヌだなって思ったんです(笑)。ハードコア・ウポポとも言ったんですけど。前作はポップスに歩み寄ろうという意思のあったアルバムで。その路線でもっと開けた作品になるのかなと思っていたら…」

Mayunkiki 「うん。閉じましたよね。本当に、制作過程としては、同じような気持ちでやってたんですけど、やっぱりMAREWREWが10年、10年経つとおどろおどろしさとかが増すというか、なんかやっぱり力強さが増す」

後藤 「情念みたいなものが出ますよね。エモーショナルですよね。思いがね、直接入っているという」

Mayunkiki 「うちのメンバーが1人、2年ぐらいお休みして、復帰作なんですけど、久しぶりにやるとね、みんな本気になっちゃって。で、言葉遊びのものが1曲あるんですけど、それが本当に4人で、ぶっつけ本番みたいな感じでね。全然練習もせず、真ん中に手をつないで、バンバン打ちながら歌う歌があるんですけど、もう止まらなくなっちゃって。最後笑って終わるみたいな感じだったんです」

後藤 「Jポップというか、いわゆるポップスが好きな人に向かって開いていったMAREWREWが、ハードコアなルーツ・ミュージックに戻った理由ってほかにもあるんですか。そこにちょっと興味があって」

Mayunkiki 「『もっといて、ひっそりね』のときは、そんな広く知られていなかったのもあるし。すごく入りやすいアルバムだったと思うんですよね」

後藤 「確かに」

Mayunkiki 「で、(今作は)それを聞いた人が買うだろうと。裏切られたほうが面白いかなと思って。アイヌ音楽を聞いたことない、MAREWREWなんかポップそうって聞いたら、“お、重いっ”みたいなのは狙いたかった。“マレウレウの本気”っていうサブタイトルがついているので、その本気度を聞いてもらって分かるようなアルバムにしたかったのね。本当に前作はいろんな楽器が、ギターとかトンコリとか、電子のパーカッションとかも入っていたんですけど、今回、1曲しか楽器は入っていないので」

後藤 「自分たちの文化を濃い目に汲み上げたい、みたいな気持ちだったんですか」

Mayunkiki 「なんかやっぱり過渡期なんですよね、アイヌのものって。いろんなところでメディアが注目していて。そんななかで、なめられたくないというか」

後藤 「ロックバンドみたいじゃないですか」

Mayunkiki 「そうですね。反骨的なところはあるのかな」

アイヌの歌はどこから来たか

後藤 「RekpoさんとHisaeさんは、どんな気持ちだったんですか。ほかの楽器を抜いて、ウポポのアルバムになっていくことについて」

Rekpo 「やっぱり前作は遊び心があったし、10年やっていて、その集大成じゃないけど、声もだんだん変わって、また節回しもどんどん自分のものになってくる。10年前のものと今のものを聞くと、みんなが全然違う歌い方になっていて。これはだいぶ本気だな、これは歌だけで勝負していったほうがいいんじゃない?っていうのがあって。まあ1曲ぐらいはOKIさんにトンコリを弾いてもらって」

後藤 「トンコリが聞こえた瞬間、めちゃめちゃほっとしました。あっ、やっと知っている音が出てきたぞ!みたいな(笑)」

Rekpo
Rekpo

Rekpo 「そうなんです(笑)。それだけちょっと入れてもらって」

後藤 「何回かセッションに混ぜてもらって、ギターで何か弾いてくださいって加わったときに、ギターのどこ触っても合う音がないんですよね。最初の人が自由に歌い始めた音階が基本で。例えば、ドやドのシャープから始まったら、それはギターで合わせられますけど、その半分とか、微分音とかだったら、どこ押さえても合わない。弦をこすってノイズを出すしかないなっていう」

Rekpo 「だから、後藤さんが一番最初に、たぶんポロンとか、メロディー的な感じでとか、リズム的な感じで(コードを)弾いたら、私たちはその音で歌うんですよね」

後藤 「キーの音が鳴ったら、それに合わせて歌声をチューニングするということですよね。でも、ガイドなしで歌い出した人の音に合わせる。きっと音楽の始まりってこういうことだったんだろうなっていうのはね、考えますよ」

Rekpo 「私の最近、めちゃくちゃ知りたいモード、アイヌの歌はどこから来たか」

後藤 「素敵なテーマですね」

Rekpo 「きっと自然界の音だったりとか、鳥とか動物の声だったり、そんなようなものから歌が始まっているんじゃないかなって、だんだん思ってきている。本を読みあさったりして、結局、ポリフォニーとかね、そういうようなものも一体どこから来たのかっていうのが、どんどん知りたいモードで」

後藤 「Hisaeさんはどうですか。新しいアルバムを作るにあたって」

Hisae
Hisae

Hisae 「まず、今回久しぶりに4人で歌っていく中で、すごく楽しかったんですよね。歌うこと自体がね。歌で始めると、本当に楽器を入れる余地がなかったということもあるし。前回に比べて、歌で勝負しよう的な気持ちだったんだと思うんですよね。なので、歌が中心。MAREWREWの歌って、今回ソロの曲も結構あるんだけど、やっぱり輪唱が特徴的なので。MAREWREWだよっていうところを示そうと思ったり」

後藤 「面白いですね」

Hisae 「ハードコアだけども、聞きやすいと思うんですけどね。あ、なんか聞いていられるな、気持ちもいいかもっていうふうになってくれるかなとは思ってます」

後藤 「気持ちよくなって、何て言ったらいいのか、スーッとリラックスして寝ちゃう感じがありますね、聴いていると」

Mayunkiki 「一番最初のミニアルバムを出したときって、やっぱり“眠り”な感じだったんですよ。で、2枚目出したときって、眠らせるものかと思ったんです。なので遊びが多かったんですよ」

Hisae 「うん。そうそう」

Mayunkiki 「ヒーリングミュージックみたいになるのが嫌だったので。2枚目で、目を覚ませよみたいなところになったんです。歌だけでも目を覚ませられるぞと」

表紙