エネルギー自給施設を備えた街づくりを進める、岩手・紫波町の『オガールタウン』。エコハウスのモデルハウスを設計した竹内昌義に聞く、新しい住まい方。
岩手県の県庁所在地である盛岡市の南に位置するのが、人口およそ3万4千人の紫波町。主要な産業は農業だが、近年まで盛岡のベッドタウンとして人口が増えていた。盛岡駅から電車で20分乗ると、JR紫波中央駅に着く。住民が建設費の一部を寄付として出し合い、1998年にできた請願駅だ。
駅の目の前に広がるのが『オガールエリア』。フランス語の〝ガール(駅)〟と、紫波の方言〝おがる(成長する)〟のかけ言葉からネーミングされた。2007年から始まった街づくりは、足かけ7年の取り組みになる。2011年にドイツの名門サッカーチームの練習場と同じ人口芝のグラウンドを誇る『岩手県フットボールセンター』がオープンしたのを皮切りに、翌年は飲食店舗やマルシェ、図書館、医院などを備える『オガールプラザ』が完成。2014年夏にはバレーボール専用体育館と宿泊施設などからなる『オガールベース』が誕生した。また2015年春には、敷地内に紫波町の新役場庁舎が竣工、5月には開庁する見込みだ。
もともとこの土地は紫波町の所有地。その一部である『オガールプラザ』の民間棟部分『オガールベース』の敷地を、30年の期限で民間に貸し出している。借り主はそれぞれを運営する株式会社。町には土地代と固定資産税が入る仕組みだ。こうした自治体の経営手法は『官民連携手法(PPP)』の名称で注目を浴びている。
『オガールエリア』に一歩足を踏み入れると、画一的な冷たさがないにも関わらず、非常に落ち着いた印象を受ける。その理由は、2009年に有識者に委嘱して『オガール・デザイン会議』が設置され、翌年に『オガール・デザインガイドライン』が策定されたことが大きいだろう。たとえば、中央の広場『緑の大通り』のランドスケープデザインを手がけたのは、『星野リゾート』の一連の仕事で知られるデザイナーだ。
こうした目に見える街並みの質だけでなく、暮らし方そのものをデザインしていこうと、『オガールエリア』は試みている。他の開発地と一線を画す特徴が、自前のエネルギーステーションを備えることだろう。
地域のエネルギー供給を大手の電力会社に任せっぱなしにしないこの計画は、東日本大震災よりも前に構想されていた。エネルギーステーションでは紫波町の森林資源からつくり出される木質チップをバイオマス燃料に、ボイラーで湯を沸かしている。その温水を地中に巡らされたパイプラインを通じて、『オガールベース』と役場庁舎、各住宅まで届ける〝地域熱供給システム〟を民間事業によるインフラとして用意している。温水は熱交換器によって給湯や暖房に使えるほか、冷水供給によって冷房としても使われている。
再生エネルギーを活用した、循環型の街づくり。紫波町では2011年3月、新たに『オガール・デザイン会議』の委員を東北芸工大の竹内昌義教授に委嘱し、分譲予定の建築モデルにエコハウスの考え方を採り入れた。それはエネルギーを新たにつくり出すだけではなく、極力ムダなエネルギーを使わない住宅を建てるという〝攻めるための守り〟とも言えるコンセプトだった。
竹内昌義(たけうち・まさよし)
1962年神奈川県生まれ。建築家、東北芸術工科大学教授。95年から建築設計事務所『みかんぐみ』を共同主宰。主な代表作に『SHIBUYA AX』『愛・地球博トヨタグループ館』『伊那東小学校』『マルヤガーデンズ』『山形エコハウス』など。『団地再生計画/みかんぐみのリノベーションカタログ』『未来の住宅』『原発と建築家』『図解 エコハウス』など、著書・共著書多数。