藤村「日本の政治では、2009年に『コンクリートから人へ』という話になりましたが、それは今から思えば、ちょっと議論を単純化しすぎていました。コンクリートには耐用年数というものがあるので、本当に必要な社会投資の場合、たとえば『学校をどうする』とか『公民館をどうする』という話に関しては、2020年以降をにらんでしっかり実態や課題を吟味して、必要な部分は再度建築し直すことを考えないといけません」
———海外でも同じようなことが起きているのでしょうか?
藤村「アメリカは1929年の大恐慌の後の1930年代に公共事業へ集中的な投資をしました。それが50年後に一斉に耐用年数を迎えて大きな橋が落ちるとか、トンネルが崩れるといった問題が1980年代に一斉に起きました。行政が大幅なコストカットをやったりと、いろいろな工夫をしてアメリカはなんとか乗り切ったんです」
後藤「日本ではその問題が2020年代に来ると言われているんですね」
藤村「いわゆる『朽ちるインフラ問題』と呼ばれている問題です」
『eコラボつるがしま』はこれから住民が育てていく施設。中庭のバーゴラにも植物が育っていく。
藤村「『批判的工学主義の建築』と同じタイミングでもう1冊『プロトタイピング』という本を書いたんです。プロダクトデザイナーとかプログラマがよく、とりあえずのフラッシュ・アイディアをパッとプロトタイプ(試作品)の形にして、そこからフィードバックして考える行為を『プロトタイピング』と呼びます。何はともあれアイディアをかたちにして『出してみてから考える』とか『練習する』という考えが大事だということは、きっと社会政策のデザインのような大きな課題でも同じだと思うんですよね。実験的なことは、小さなプロジェクトでまずやってみて、ダメなところは直してより大きなプロジェクトにフィードバックする。社会全体をプロトタイピングしながら考えていくというのが、これからの考え方の基本だと思っています」
——そう考えると、鶴ヶ島市のような7万人規模の小さな街のほうが、プロトタイピングとしては取り組みやすいと。
藤村「ええ。やろうと思えば前例がないことでも取り組むことができるチャンスは、小さな街のほうが大きいですし、それが大きな可能性だと思います。ただ、そうは言っても小さな街にはお金がないし、長期的な視野で慎重に計画を立て、投資をしていかないといけません。今提案しているプロジェクト群も、実現するのは早くて5年後、大きく動いて行くのは10年後ぐらいかなと思っています。 ただ、一旦支持が広がってやろう、ということになって動き出したら案外早いのかもしれません。もしかしたらスタジアムの改修のような大きなプロジェクトだって、10年ぐらいしたら動いているかもしれないですね」
藤村 龍至(ふじむら・りゅうじ)
1976年埼玉県生まれ。建築家、ソーシャルアーキテクト。藤村龍至建築設計事務所代表、2010年より東洋大学理工学部建築学科専任講師を務める。建築家として住宅、集合住宅、オフィスビルなどの設計を手掛けるほか、インフラの老朽化や人口の高齢化を背景とした住民参加型のシティマネジメントや日本列島の将来像の提言など、広く社会に開かれたプロジェクトも展開している。近著に『批判的工学主義の建築』『プロトタイピング』がある。