建築家の藤村龍至が埼玉・鶴ヶ島市とさいたま市で住民と描くのは、2020年以降の社会のあり方。縮小する未来を、どう迎えるか。
埼玉県・鶴ヶ島市は、東京都心まで1時間以内で通勤できる人口約7万人の都市。住宅地の間に農地も広がり、関越自動車道と首都圏中央連絡道のジャンクションも近いため、大手企業の工場も立地している。急速に過疎化が進む地方都市と比べると、市民は不自由ない暮らしを送っているように見える。だが、鶴ヶ島のような郊外都市は急速に発展したぶん、少子高齢化が一気に進み、生産人口(15〜64歳の働く人々)も急速に減り、厳しい未来が予想されている。
鶴ヶ島市に接する川越市の東洋大学で教鞭をとる建築家の藤村龍至は「市の保有資産を3分の1にまで減らさないと、維持できない」と試算する。それには学校や公民館などをどんどん統廃合し、資産を減らす必要があるが、市民の危機感は薄かった。しかし、藤村らが公共施設の縮小計画を提案してから、風向きが変わり始めた。藤村は利用者を巻き込みながら公共建築の将来像を考える『鶴ヶ島プロジェクト』に取り組む。
その一環として完成したのが、鶴ヶ島太陽光発電所・環境教育施設『eコラボつるがしま』だ。これは養命酒製造が鶴ヶ島市の自社工場跡地に建設したメガソーラー施設に隣接して建てられた建築。目の前の保育園からは、子供たちの明るい声が届いていた。再生可能エネルギーと地球環境問題の学習を目的にしたこの施設、普段は太陽光パネルで発電された電力によって模型を動かしたり、講演会を催したりする多目的な空間だ。災害などの非常時には、電力や飲料水を供給する役割を担っている。前例の少ない施設だけに住民が「住宅地の隣に発電所を設計してよいのか」と不安を抱くことのないよう、太陽光発電の仕組みを説明し、丁寧にコミュニケーションを図る必要があった。
藤村の設計手法がユニークなのは、軸となる建築のイメージをしっかり持ちつつ、多くの人々の声を取り入れて提案をどんどん変化させること。『eコラボつるがしま』では、最初に10個の案を作成。投票を繰り返して住民の意見を引き出した。中盤では3案に統合され、最終投票で1案に統合された。だが、統合案には全ての案の要素が必ず少しずつ取り入れられ、全ての住民が「自分も参加した」という実感を持てるような工夫をしている。完成した施設内の素っ気ない合板の壁も、後から利用者が機能を拡張しやすいようにと、考えられたものだ。
次に取材スタッフが移動したのは、さいたま市の大宮公園。南北に伸びる約2㎞の表参道がある『氷川神社』に隣接する公園で、数々のスポーツ施設が集結していることでも知られる。
近年、Jリーグ『大宮アルディージャ』サポーターに支えられて賑わっているのが『NACK5スタジアム大宮(さいたま市大宮公園サッカー場)』だ。東北・上越新幹線も停車する大宮駅からは徒歩圏内で、アクセスのよい街中にある。そのため、大宮駅東口からスタジアムの間にある飲食店街にも、大きな経済効果をもたらしている。1964年の東京オリンピックからの歴史を持ったスタジアムだが、改修工事を施しても敷地面積が限られ、これ以上の拡張は望めない。
大都市近郊の都市にとって、一定の動員や宣伝効果が期待できるホールやスタジアムなどの公共施設を生かすことは重要だと藤村は考える。そのため公共施設の改修計画と共に、行政へ公園の改修プランを提案。住民を巻き込んでパブリックミーティングを重ねているところだ。
藤村 龍至(ふじむら・りゅうじ)
1976年埼玉県生まれ。建築家、ソーシャルアーキテクト。藤村龍至建築設計事務所代表、2010年より東洋大学理工学部建築学科専任講師を務める。建築家として住宅、集合住宅、オフィスビルなどの設計を手掛けるほか、インフラの老朽化や人口の高齢化を背景とした住民参加型のシティマネジメントや日本列島の将来像の提言など、広く社会に開かれたプロジェクトも展開している。近著に『批判的工学主義の建築』『プロトタイピング』がある。