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やっとここまで来れた〜福島県双葉郡富岡町〜

「何十年かけてでも、人が住める場所に戻す」

後藤「今回の6号は『うーん』って頭を抱えてしまうようなことも、『うーん』って唸りながら、そのまま伝えようっていう気持ちがあるんですよね。復興が進んでいるところもあれば進んでないところもあって、それぞれの町が全然違う問題を抱えていたりする。そういうのを真っ直ぐ伝えたいんです」

平山「そうだね。それについて言えば“福島”って言葉でひとくくりにされることの危うさは感じてる。いわきに住んでいる人たちの場合、“福島”っていう意識はそれほど持ってないんじゃないかな。それを多用しがちな中通りの人たちと浜通りの人たちの間では意識に大きな差を感じるし、だから県内にいる人は何かを発信するときに“福島”じゃなくて、自分の住んでる地域の名前を使ってほしいね。むしろメディアが“福島”を原発事故のアイコンとして多用することで地域性が覆い隠されちゃうというか」

後藤「平山さんが自分のいる地域をなるべく大きな単位で捉えるとしたら“双葉郡”ってことになりますか?」

平山「もちろん。自分の発言はほとんどが富岡町か双葉郡、あるいはいわきを前提としてて、震災を語るとき『福島は〜』という言い方はほとんどしてないと思う」

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後藤「初めに『3年経って、今後の方向性が見えてきた』とおっしゃっていましたが、平山さん個人がこれから力を入れていきたいことって、何でしょうか?」

平山「色々あるよ。自分の音楽レーベルも盛り上げていきたいし、実家のビジネスホテルも再建していきたい。あとは、双葉という地域全体を立て直すためのビジョンも常に持っていたいね」

後藤「『NomadicRecords』(※8)を東京から富岡に移したのは、どんな意味合いがあったんですか?」

平山「お家の事情が色々あったんだけど、戻ってレーベルを続けるからには“地方発信”というテーマを当然考えていた。ウチには東京のバンドもいるけど、地元はもちろん広く東北全体を見て、そこから発信していければいいなと」

後藤「そんな目標を抱いてこちらに戻って来て、早々に震災に見舞われたんですよね」

平山「そうだね。でも『地方から全国に向けて何かを発信する』っていうプロセスをすでに経験していたおかげで、すぐに『富岡インサイド』(※9)のサイトを立ち上げられたんだ。あのときパッと動くことができて、本当によかったなと思ってるよ。これから10年、あるいは20年かけてでも、あの地域を人が住めるような場所にしていくっていうのが長期的な目標だね。そこで帰るか帰らないかというのは個人の選択だけれども、まずは自ら突破口を開いていきたい」

後藤「なるほど。時間がかかるかもしれませんが、たくさんの人が戻れるような環境になっていってほしいですよね」

平山「うん、そのためには、まず自分たちが動かなきゃいけない。本当は自治体が何かしらのきっかけを作ってくれればいいんだけど、待っててもしょうがないから。今は住民や民間が率先して動いて、後から自治体がついてくるのが現状なんだよね。けど、それでもいいと思うんだ。ついてくるって言っても、そんな大げさなことではないよ。例えば『町に人が集まるようにする』とかさ。人が集まれば会話が生まれ、繋がりが生まれ、新しい動きも生まれてくるようになると思う。そういう小さいところからね」

“わかりやすさ”のために、捨てられていることがある

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月の下の交差点、歩道橋に平山さんが掲げた文字。
「富岡は負けん!」

後藤「復興のためには、原発とも本腰を入れて向き合っていかなければなりませんよね」

平山「そうだね……原発に関しては、本当に先行きが見えない。『廃炉には40年かかる』って政府の発表があったけども、現状すら正確に把握できていないのになんで最終的なゴールの見込みを立てられるのか、すごく不思議だよ。東電もわかんないと思うんだ、正確には調べようがないからさ。チェルノブイリやスリーマイルと比較されることも多いけど、状況も規模も違うしね」

後藤「そうなんですよね、僕もそれはずっと引っかかっていて。今回は海辺での事故だったっていうのも、今までの事例とは大きく違う点ですし。ひとつの独立した出来ごととして捉えていかないと、いろいろと計り間違えてしまう気がするんですよ」

平山「でも、メディアはそういう風に比較したがるんだよね」

後藤「そうなんです。その方がわかりやすいし、視聴者も食いつきやすくなるから。確かに“わかりやすい”って大事なことですけど、わかりやすくすることで抜け落ちてしまうものって、たくさんあると思うんです。1人にインタビューをして『○○町の住人の声』なんて報道していても、その町に1万人住んでいたとしたら、そこには1万通りの意見があるわけで。世の中、そんなに単純じゃない」

平山「当たり前のことなんだけどね」

後藤「ただ、そういうことを考え始めると『皆にとって幸せなやり方なんて本当に存在するのか』っていう問いになってきて……民主主義の難しさというか、残酷さにぶち当たるんですよね」

平山「最大多数を優先する選択はわかりやすくて楽だからね。でも、突拍子なく革新的なことを言い出すのは、いつだってマイノリティなんだよ。歴史を振り返ってみても、当時で言えばアウトサイドにいる人たちが時代の先陣を切ってることのほうが多い」

後藤「そうですね」

平山「そういう動きにこれから期待したいし、自分も体ごと投げ出す覚悟でいるよ。人には立場によって色んな役割があるでしょ。行政が大枠を作って、実行する企業があり、研究したり勉強したり、多彩な企画やイベントがあったり。その中で相双ボランティア(※10)もそうなんだけど、自分なんかのやってることは最底辺のドブさらいだと思ってる。実際しょっちゅう泥まみれになるしね。でもドブをさらう奴がいないと水は流れないんだよね」

後藤「今日は本当にありがとうございました。『THE FUTURE TIMES』では引き続き、富岡を始めとした被災地の経過を追い続けていきたいと思っています。今後ともよろしくお願いします」

平山「よろしくどうぞ!」

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(2014.4.15)
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(※8)NomadicRecords

1999年に発足した、平山さんが代表を務める音楽レーベル。これまでにプロデュースしたアーティストはACIDMAN、theARROWSなど。2010年、東京から福島県富岡町に拠点を移す。震災以降はいわき市に仮事務所を設置して活動中。
http://www.nomadic.to/

(※9)富岡インサイド

平山さんが震災後すぐに立ち上げた、全国各地に避難している富岡町民のための支援・情報サイト。
http://www.tomioka.jpn.org/index.html

(※10)相双ボランティア

2011.3.11東日本大震災、原発事故により、避難を余儀なくされた相双地区の為に活動し、人と人を繋いでいく任意団体。
http://sosovolunteer.com/