伊達郡国見町・30代女性(主婦)

子供達は皆、ガラスバッチを付けています。積算量を測るものなんですけど。

─お子さんの年齢は?

A「子供は、1歳9カ月です」

B「小、中、高校生です」

C「小、中学生です」

─お子さんがいらっしゃるので、放射能が心配ですよね。

A「そうですね。外にはあまり連れ出せないです。今の時期だと砂遊びをさせたいのに、一度もさせていないままです。花や草を触らせたりすることもできないし」

─Aさんのお子さんが付けている線量計にハっとしましたけど。

A「ガラスバッチです」

B「子供達は全員、付けています。積算量を測るものなんですけど、一番酷い時期にはなくて、これが配られたのは9月1日からなんです」

C「今更測っても…って、みんな言ってますけど」

─県から配られたんですか?

A「福島市からです。未就学児は希望制で、ウチは希望したんですけど」

B「郡山市は、10月14日から配り始めたとニュースで言ってました」

─それぞれの市から高校生以下に配布されるんですか?

B「高校生には配られなくて、小中学生だけですね」

─「なんだよ、今更」っていう気持ちはありますよね。

B「すべてにおいて遅いからね」

A「3月11日から何をどれくらい食べたかっていう健康調査も、最近になって送られてきて…。震災当日と翌日くらいまでならわかるけど、それ以降は全然憶えてないですし」

C「どんな行動をしたか、とかね」

─何をどれくらい食べたかを調査する用紙が届いているんですか?

C「『地元の野菜をどれくらい食べましたか?』とか」

A「『大皿でどれくらい』とか『中皿でどれくらい』とか」

B「『自家栽培したものを食べたか』とか、書かれています」

─3日前に食べた物さえ、思い出すの大変なのに…。それを調べて、その後どうするかは知らされていないんですか?

B「予想の積載線量とか内部被爆をどれくらいしているのか、だいたいわかるって感じなんですかね。結局『これなら大丈夫でしょう』で終わりそうですけど(苦笑)」

─福島市に提出するんですか?

A「市ではなく県ですね」

B「飯舘村とか線量が高い地域には、8月くらいに調査が来てたみたいですけど」

─実際お子さんがいらっしゃって、食べ物に気を遣われていると思うんですが、特にどういったことに気を遣っていますか?

C「スーパーで産地の確認は必ずしますね。申し訳ないですけど、福島のものはなるだけ買わなかったり」

A「できるだけ遠い地方の物を買うようにしてます」

B「生協で西日本の野菜を届けてもらっています」

─まわりの主婦の方々もそういった感じですか?

B「気にしない人は気にしないようですけど、母として子供達に何ができるかって言ったら、ご飯を作ることくらいなので」

C「やっぱり今、気をつけなきゃいけないことは内部被爆だって言われているんで。福島にいるかぎり、せめて食事くらいはね」

A「子供の食事に関しては、水もミネラルウォーターを使っています」

B「ウチも宅配のミネラルウォーターを取り寄せました。ああいったものは、自分はまさか買わないと思ってたんですけど」

─原発の爆発当時は、どこかに避難されたんですか?

A「自宅にずっといました。窓を閉めて換気扇も回さず、2カ月くらい篭もっていました。買い物は主人と母にお願いして、私と子供はずっと家で過ごしていましたね」

C「ウチは、子供達の学校が始まるまで、会津のほうに1週間くらい避難していました」

─町を出られている方も多いんですか? それとも、春休み夏休みだけ疎開している感じですか?

B「長期の休みに疎開してる感じですね。春休みも夏休みも、本当に福島は人っ子ひとりいないような状況でしたね。その時期は、子供の数が激減していました。NP0法人とかが福島の子供達をキャンプに連れて行ってくれたりとか。ウチらは頼まなかったけどね」

C「そういうのに参加している人は、けっこういましたよ」

─みなさん、ガイガーカウンターをお持ちなんですか?

A「結局、近い遠いに関わらずホットスポットがあるじゃないですか? 福島市は離れていても線量が高い所がいっぱいありますし。外へ出掛ける時は必ず線量計は持っていくようにしてます」

A「私も持ってますし、家の近所でもみんな持ってます」

A「ここはビルの中だから低いですね。0.13ですね」

C「一般家庭だと、0.3くらいですね」

A「私の家はマンションで高い所なので、0.13くらいですね。比較的、線量は低いです」

─でも、みなさんがガイガーカウンターを持っているなんて、すごいですね。値段も高いですよね?

A「けっこう高いですよね。でも、これがあって安心して外に出られるっていうのはありますね。そうやって出掛けなくちゃいけないのは悲しいですけど」

─学校のグラウンドの土とかは入れ替えているんですか?

B「入れ替えてもらいましたね。高校も全部」

─掘った土は持っていく所がなくて、校庭に埋めているって話ですよね。心配ですね。

C「仮置き場となっているけど、ずっとそのままで…」

A「結局、その置き場に近づいたりもするしね」

B「その上でサッカーとかもしてるしね。中学校は、端っこに持っていくと近くの家の線量が上がってしまうから、近隣住民のことも考えて、仮置き場が校庭の真ん中なんですよ。小学校は道路の真横で、サッカーゴールの近くに置いています」

A「雨とか降ってきたら流れてきそうな気もするし」

B「遮蔽シートもどれくらいもつか、わからないし」

─改善してほしいですよね。

C「溝なんかも掃除したいと思っても、結局持っていく場所がないので、掃除もできない」

─集めてもどうするのかってことですよね。

C「ゴミに出しても、それが散らばるわけだし」

B「家の目の前に深さが2mくらいの側溝があって、蓋が開いているんですね。そこに背丈よりも延びている雑草が生えていて。『子供が危ないから除草してください』って近所の人が市に電話をしたら、あちこちに回されて最後には『町会長さんを通してください』って言われて。町会長さんに連絡しても、『そういう場所は福島にはいっぱいあって、優先順位を決めなきゃいけないから待ってください』って言われて。自分でやるのであれば家庭ゴミとして持っていってくれるんですけど、業者がやったら廃棄物としては持っていけないので、『やりたかったら自分達でどうぞやってください』って言われて…。結局、何もできないんです」

C「待つことしかできない」

─いわゆる“行政”って感じで、もどかしいですね。

A「その間にも子供達は放射能を浴びていますから」

本当に、福島を元に戻してほしい。果物も美味しいし、すごくいい所なので。

─どうにかしてほしいですよね。

B「震災直後に、小学校6年生の女の子が4、5人集まって『たぶん、福島の子はお嫁にもらってもらえないから、福島の人で探すしかない』って話をしてたよね」

C「結局、親御さん達から『福島の子は…』って言われるんじゃないかって心配していて」

B「親はちょっとしか深刻に思ってなくても、子供達は私達が思っている以上に真剣に考えていて」

─今、最も望んでいることってなんですか?

B「全部を除染してほしい」

A「元に戻してほしい」

B「本当に、福島を元に戻してほしい。果物も美味しいし、田舎もすぐそばにあるし、東京にも1時間半で行けるし、すごくいい所なので」

A「離れたくはないから」

─やっぱり住んでいたいですよね。

A「普通の生活がしたい。普通のありふれた生活に戻してほしい、本当にそれだけです」

B「無理だってわかってるけど」

A「わかってはいるんだけど。毎日がストレス」

B「すごく楽しいことをして、おしゃべりをしてても、必ずこの話が出てくるし…。今までのランチだったら楽しかったのにね、って」

A「外に食事に行っても『この野菜はどこの地域のものを使っているんだろう?』とか、買い物に行ってもなるべく福島産のものを買わないにしようとか、そう考えている自分もすごく嫌だし。復興って意味では福島を応援しなきゃいけないのに、それができないのが苦しいところですね」

C「早く最終処分場が決まらないことには、除染も進まないし」

─そもそも、原子力発電の燃料の処分場すらないですしね。子供達は、どうですか? 不安を感じている様子はありますか?

C「中学生は見た目も気にするので、マスクとかしないし」

B「中学校に入学しても6月まで校庭に出たことがないっていう状況で、表土を入れ替えた途端、先生が 『腕立て伏せをしろ』と。『顔をもっと低くしなさい』って言われたらしいです。その時に『私達はどうなるんだろう?』って思ったって。それくらいしか言わなくなりましたね」

C「中学生くらいだと勉強と部活が忙しいって言って、あんまりそういうことを考える余裕がないんですね。親はやっぱり子供のことは心配ですけど。子供はやっぱり、親達がいるからある程度安心して任せている部分もあるのかな」

B「ただ『ナントカちゃんがいなくなったよ』とか、『誰々さんが引っ越したよ』ってことを聞くと、すごくがっかりしてる」

C「『誰かが行くんだったら私も行きたい』みたいな」

B「親達もそうだよね。『一緒の学校に転校できるならいいよね』って言っても、ウチなんかは高校生がいるからそれもできないし。でも、まわりの人達が次々いなくなっていくと、ここにいる私達が異常なのかと思ってしまったり」

A「ここにいていいんだろうか?と思ってしまいますね」

─どれくらいのお子さんが引っ越しされているんですか?

C「ある学校では、100人くらいが引っ越しています」

B「ウチの子が通っている学校は3クラスだったのが、あと3人いなくなったら2クラスになるっていう感じです」

C「そういう学校がほとんどじゃないですかね」

B「来年は幼稚園がたぶん開けないんじゃないかって話もありますね。先生達も雇えないって。入園の申し込みに行ったら、まだ6人だったとか。ここで生きているんだから頑張ろうって話しているうちはいいんだけど、そういう離れていく人の話を聞くと不安になるっていうか、それで落ち込むのね」

A「不安になるね」

B「母として、ここにいていいものやら。それこそ娘が大人になって東京の大学に行って、いい人ができて一緒になるって話になった時に、その相手の方が関東の向こうの方だったりして、『福島の娘さんですか。あの時に逃げなかったお母さんの子供っていうのはどうなのか?』って言われたら…、それは子供もかわいそうかなって思ったり。でも 『転校はしたくない』って言うし」

C「小学生だったら親が行くって言ったらついていくだろうけど、中学校くらいになると転校するのは、厳しいですね」

B「家族と離れ離れになる負担のほうがつらいよね」

A「そういう意味では、知らない土地に行けば放射能からは逃れられるけど、そこでの生活やストレスを考えると、こっちにいたほうが精神的には安心できるのかなって」

B「転勤だったら別なんだけどね」

A「それなら諦めもつくけど、自分の意思で決めるとなると、迷いが出てしまいますね」

取材:文/千葉明代